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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)45号 判決 1952年8月22日

主文

本件上告を却下する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

記録によれば、本件につき東京高等裁判所が昭和二五年一二月二八日言渡した判決は即日上告人の訴訟代理人成富信夫に対し民訴一六三条所定の方法により送達されたことが明かである。ところが本件上告申立書が当裁判所に提出されたのは右送達の日から二週間の上告申立期間を経過した後の昭和二六年一月二〇日であるから、本件上告は不適法として却下すべきものである。

尤も審尋の結果によると、右送達にあたり、原判決正本は送達名宛人たる前記成富信夫自身に交付されたものではなく、弁護士御手洗文麿に交付されたものであることを窺うに足りる。

併し、右弁護士御手洗文麿は当時弁護士成富信夫の主宰する法律事務所に常勤し、同人の指揮命令を受けて法律事務に従事していた者であつて、原裁判所係書記官からあらかじめ交付を受けた判決正本送達のための送達報告書用紙を右事務所に持帰り、受領者欄に成富信夫の記名押印をした上、これを原裁判所に持参し係書記官から原判決正本の交付を受けたものであること並に右正本の受領及びそのためにする印鑑の使用については特に成富信夫から明示の許諾を得ていなかつたが、かねて同人から原判決謄本の受領方を命ぜられ印鑑の使用を許されていたので、右印鑑を用いて原判決正本を同時に受領しても敢て同人の意に反するものとは思われない状況であつたことは、いずれも上告代理人提出の陳述書に添付された御手洗文麿名義の始末書に徴してこれを認め得る。

そして、このような場合、記名押印のある送達報告書用紙の持参者を送達名宛人自身と同視し、これに判決正本を交付して民訴一六三条の送達をすることは裁判所多年の慣行であるのみならず、同条の解釈として許されるものと解するのが相当であるから、上告人に対する原判決正本は適法に送達されたものというべきである。

然るに本件上告が右送達後法定の期間内になされ得なかつたのは、前記御手洗文麿が原判決正本受領の事実を送達名宛人たる成富信夫に告げなかつたためであることは審尋の結果により明白であつて、たとえその間、主張のような、原裁判所係書記官の誤つた言明により右正本受領の事実の判明が遅れたという事情があつたとしても、右御手洗文麿の責を少しも軽減するものではない。

されば本件上告期間の徒過は民訴一五九条にいわゆる「当事者が其の責に帰すべからざる事由により不変期間を遵守すること能わざりし場合」にはあたらないと解すべく、従つて追完は許されないものといわねばならない。

よつて、民訴三九六条、三八三条、九五条、八九条により主文の通り判決する。

この判決は、裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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